空間 - 幼い頃の思い出より
幼い頃、「ままごと遊び」で遊んだり「段ボール箱遊び」で遊んだ記憶がありませんか?
3〜7,8歳くらいのまだ幼なかった頃の、多くの人が一度は経験した遊びだと思います。
ままごとあそび、段ボール箱あそび
「ままごとあそび」は主に女の子が主役のあそびでしたが、庭に「ござ」あるいは「シート」を敷いて、“いえ”という「場」を設定し、お母さん、お父さん、子供たち、赤ちゃん、お客さんと、友達同士の中で役を決め、料理つくりから家事、育児ごっこをしながら「家庭」を演じる遊びで、時には男の子もかりだされたものでした。
「段ボール箱あそび」では、自分の身体が入るくらいの大きな「段ボール箱」を積木状に積み上げたり、トンネル状に連結したりして組み合わせ、「住処」とか「隠れ家」と称して、その中に入り込んで 自分だけの専有空間を獲得したという興奮と満足感に浸りながら遊んだものでした。
家への意識、空間の体験
床面に敷いた一枚の「ござ」「シート」は“いえ”の床面となり、その敷物の輪郭から垂直に立ち上げた面(目には見えない面)を内部と外部の境界=壁として見立て、そこにはドアや障子までも変化自在に組み込まれました。そして「ままごと」劇場の場面に沿って、舞台は「台所」になったり「茶の間」になったりと自由に展開していきました。
また、段ボールの家では、段ボール箱で囲われた自分だけの専有空間には、光、空気、時間など日常の感覚と違った異次元の空間感覚をそこに発見し、不思議な心地よさを覚えたものでした。
イメージの構築、空間の形成
そこでは「ござ」「シート」、あるいは「段ボール箱」が”いえ”のシンボルとして特別の意味をもつ道具であり、イメージの具体化としての舞台装置でした。
空間をイメージするとき、イメージする対象に対して、それまで見たり、聞いたり、触ったり、匂ったり、味わったりして、五感を通して得た経験、記憶を直感的に構築し、心象風景として脳の中に認識されます。
私たちは幼い頃から、遊びを通して体験したこと、またそういう経験を重ねることによって、空間をイメージしたり、感じ取るという空間意識が形成されていくのではないでしょうか。
空間 - 領域 - 間
領域のめばえ
人は自立しようとする過程において初期の頃、「自分が存在する」という自己意識、いわゆる「自我の芽生え」にしたがって、自分の存在と周りの世界との関係性の中に、自分の空間を意識するようになってきます。自分と家族、自分と友人など身近な関係からしだいに社会へと広がりを持っていくなかで「自分の主権が及ぶ範囲」=「領域」という空間意識が芽生え始めるようになります。この「領域」は長さとか広さとかの数値で計れる「絶対的」なものではなく内面的で精神的なものであり、形やスケールがその時々で変化していく空間=「相対的空間」とも言えます。それは人によって様々であり環境、経験、記憶などにより作りあげられるイメージです。
領域のひろがり
人が生存する世界は個の「領域」、家族の「領域」群れの「領域」、地域あるいは社会の「領域」と様々な「領域」が様々な形態で繋がり合いながら成り立っています。私たちの社会はそれぞれの「領域」を尊重し有機的なつながりを持ちながら共存することで、「領域」の集合体として、社会という一つの「空間」を構成しています。
空間ー間
「空間」の概念は国によって、文化によって様々ですが、日本には歴史的に継承してきた文化で「間」という空間概念があります。光には闇が、音には静寂があるように、実体(人、自然、モノなど)はそれが存在する空間において「存在」と「無」という二つの概念によって存在が定義されます。
「間」とはこの「存在」と「無」から生まれる、実体とその周りに生じる余白、あるいは実体と他の実体との空間的、時間的、心理的距離感をいいます。(古来、日本の家は障子や襖で仕切られた空間で構成され、光や音、空気をとおして外部の気配を感じ取りながら生きてきたというスタイルから、「間」という空間感覚が尊重されてきたのかもしれません。)
実体とそれが存在する空間の中に生まれる「間」によって、そこに拍子(リズム)、緊張、調和が生じ、実体の存在に新たな生命が吹き込まれます。建築で言う「間取り」という言葉も、本来こうした背景から生まれたのかもしれません。
領域から空間へ
ひとが”家”を思い描く時、自分あるいは家族(空間を共有する人)の居場所「領域」をイメージします。「領域」は「精神的な充足を得る場所」=「拠り所」という概念であり、「自分のありか」=自己確認の場、自己生産の場、自己表現の場、自己熟成の場であり、あるいは「記憶のありか」ともなります。
建築とは「領域」というイメージを「空間」へと具体化する創造行為であり、その個性的な人格を持った「空間」どうしを有機的に紡いでいく為の「間」の創造です。
すべての人々が健やかで精神的に満ち足りた生活を送られることを願い、そして人が豊かな共生する社会、平和、未来を創造していくために・・・・
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