日本の住宅には「土間」というすばらしい空間がありました。

「豊かに生きる」「豊かな社会に住む」。

もう一度住まいの原点として見つめ直してみませんか?

「土間のある家」

 玄関の戸口を開けて家の中に入ると、土間のたたきから来るのか、台所まで繋がっている生活感からくるのか、しっとりした空気感があって、外部とも内部とも違う独特の「空間」があった。そこには、人の気配とぬくもりを感じられる「間」を実感できる場所でもあった。

 日常の接客は、土間と茶の間の間で行われた。時には、お茶を飲みながらの長話になる事もしばしばだった。天気の話から始まって、地域の話題、寄合の事、祭りの事等々話題はつきないほどであった。子供たちは、そういう場で大人の会話を聞きながら、時には会話の中に入れてもらいながら、大人への尊敬とか礼儀を学び、社会の入り口へと入っていく準備を養った。

 かって住宅、町家あるいは農家には、「住まい」を構成する一般的な形態として、また必然的な要素として「土間」が存在していた。

「土間」とは、玄関口にあって、一般的に間口1.5間(2.7m)、奥行2〜2.5間(3.6~4.5m)程度、おおよそ6帖から8帖程度のの広さがあり、たたきと呼ばれる土の床仕上で成る空間のことを言った。また天井は屋根裏の骨組が見える直天井で吹抜空間となっていて、家によっては土間に光を入れる為の明り採り窓が備えられていたり、屋根裏小屋の昇降口でもあったりした。

 そして、玄関から土間、台所へと繋がっていて、さらにその奥にいくと裏口へと通り抜けられるというというのが一般的な形態であった。土足のまま玄関から台所まで移動できる空間として、同時に茶の間あるいは座敷につながる前室(ホール)として、また日常的な接客の場、コミュニケーションの場として、あるいは、家内仕事とか道具の手入れとかの作業空間としてというようにさまざまな役割があった。

 このように「土間」には多機能な役割と同時に、人と人をつなぐ有機的な「空間」として「家」の構成上重要な位置づけがあった。

 日本の伝統的住宅は、二つの軸によって構成されていたと考えられる。一つは玄関、土間、台所、茶の間、勝手と続く土間空間を軸とした生活機能性空間軸(X軸)、もう一方は土間空間軸から直角に交差した軸で、次の間、座敷、さらに床の間、仏間へとつながる象徴的空間を軸とした精神性空間軸(Y軸)、という二つ軸で定義される空間である。

 X軸は日常の生活の基軸であり、毎朝、昼、晩と繰り返される食を中心にした空間で構成されていた。Y軸は家族を守る、幸せを祈るといった精神性の基軸であり儀式的な空間でもあった。このX軸、Y軸の交差する部分にあるのが土間であり、二つの軸が同次元に存在しながら空間を構成しているという意味で高い存在意義を持ち合理性の高い空間であった。

 現代では生活様式の変化、地域コミュニティの変化、スペース的な合理化などの理由により、かっての「土間」は消滅し、靴を脱ぐだけの「玄関」という一坪足らずの空間に姿を変えた。そこでは、巾わずか一間ばかりの「上り框」が家の外と内を隔てる境界線となった。個々の部屋はそれぞれに独立権を与えられ、リビング、ダイ二ング、寝室、子供部屋などとそれぞれの機能を与えられた部屋の集合体が「家」という形態になった。個々の部屋は「動線」を3次元化した廊下によって物理的につながっているというのが一般的スタイルとなった。

 今、家族どうしはつながっているのだろうか?人と人とははつながっているのだろうか?地域とはつながっているのだろうか?もう一度「住まいとは?」を問い直してみたい。

 

「人と人が豊かな結びつきで暮らせる家」「豊かなコミュニケーションのある社会」。

かつてあった日本の「土間」というすばらしい空間。

今もう一度住まいの原点として、見つめ直してみませんか?

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